2007-09-11

九月の本、中国。


「危険な幻想・中国が民主化しなかったら世界はどうなる?」 ジェームズ・マン 2007.5. PHP研究所     1,500円

「大地の慟哭・中国民工調査」    秦 尭禹 2007.6. PHP研究所   1,800円

 一昔前には「盲流」と言われていた出稼ぎ農民の都市への進出である。近代的な名称「民工」に名を変えた。うんざりするほどの胸がいたむ事例のあとに次のような章がある。「労働災害を引き起こす四つの原因」1.時間を超過した重度の労働、 2.防護措置がとられていない劣悪な労働環境、 3.労働環境に対する軽視。驚くべき四つ目の原因は、4.民工に知識がない なのだ。無知であることが労働災害の原因だと著者は言う。無知であることを責めてはいけない。無知であるままに見て見ぬ振りをしている事こそが罪なのではないか。1~3までは、無知ではない経営者や行政の問題だ。労働者の権利を護る法律や条令はあるが、それは単にあるというだけで、現状に対応はしていない。報道ではこの著書とおなじく悲惨な事例をあげるに留まる。根本的な解決まで行くことはないといえよう。

 「出稼ぎ」。いまでは若い二親が幼い子供をその祖父母に預けて都市へとむかう。病気にならないように怪我をしないようにと気遣うが、躾けや宿題を見るほどの最低の教育もおぼつかない祖父母のもとで、甘やかされ非行に陥る子供達が多いと著者はいう。こいう著者の目線が気になってくる。子を連れての出稼ぎではどうかといえば、都市でうまれた出稼ぎ農民の子等を含めて、教育を受けられる保証はない。農村戸籍のままで都市に住むこと自体がありえないことなのだ。あえて都市の学校に通おうとすれば都市の生徒の何倍もの学費を要求される。民工の子弟等の小学校は「私立」で絶えず廃校の危機に対面している。出稼ぎ先で生まれた戸籍の何処にも載っていない「黒子」状態の子供達も存在する。都市住民からの蔑視もひどい。
 先に富めるものからという理屈が形をかえてあらゆる階層にはいりこんでいる。疲弊していく農村、都市から破壊されていく環境。ほんの一握りの発展した経済空間をみて中国の近代化は発展し、欧米並みになったと思うかもしれない。想像を絶する格差は表通りには出てこない。一握りの富裕層が闊歩している。

 欧米人とくにアメリカ人の対中国感はといえば、「危険な幻想」でマン氏はいう。マクドナルドで好きなものを選べ、スタバのコーヒー、アルマーニのスーツにベンツを知った中国が民主主義に移行しないはずはないという幻影を信じている間は、不適切な報道に出くわせば「あぁ、これは例外だ」と決め付けてしまう。全国的な民主的選挙など圧倒的少数の富裕者や政府が許すはずがない、と氏はいう。たとえ共産党が無くなっても同じ性質の機構を持った組織が生まれ、同じように国を動かすだろうと。

 中国という国は不思議な国で、一つの国のなかにもう一つの国、発展途上国を持っているようなものだと、私はおもう。安い労働力を提供し、農産物をつくり、別の行政の範疇にある便利な国。二つの戸籍が存在することが厳然とした身分制を作っていることに、この二冊の著書は触れていない。公称13億のうち、一億足らずの都市戸籍所有者と、同じくらいの数の無戸籍者である黒子。

 大きすぎる国、中国。なにもかもが桁外れの国、中国。