2006-08-16

「子ども兵の戦争」 P.W.シンガー 2006年6月   NHK出版 2,100円

 「武装組織から仲間になれって言われたけど、いやだって言った。そしたら、弟を殺された。だから仲間になった。」  L、  七歳
 「村には帰りたくない。ぼくが村中の家を焼き払ってしまったから。みんながぼくをどんな目に遭わせるかわからない。だけど、きっと痛めつけるはずだ。受け入れてもらえるとは思えない。」 I、 十六歳

 や町で子どもを徴集するときに、皆の見ている前でその子どもの親・弟・妹・親戚・隣人などを殺させたり手足を切り落とさせ、村の家々に火を付けさせる。逃げ帰れないように。

 「小火器が技術的にも効率の面でも進歩した結果、いまでは子供も大人と同じくらい危険な戦闘員になれる。人類の歴史のほとんどを通じて、兵器にはそれを使う者の腕力を当てにしていた。使いこなすには何年も訓練しなければならないのが普通であったため、子供を兵士にしても役に立たなかった。」

  の昔、戦いにいくのは大人の仕事であった。しかるべく通過儀礼を受け、大人としてその社会に認められて初めて戦士となる。戦士は名誉ある存在でもあった。武器を担って行軍し戦うだけの体力のある者だけが生き残った。それが有史以来第二次大戦まで続いていた。戦後の技術革命はプラスティックを誕生させ、勿論、武器の軽量化を促進させる。カラシニコフは4.7Kg、部品も少なく30分で使い方を習得できるという。兵士の低年齢化に歯止めが無くなった。

 国の貧富の格差は広がり続ける。「先進国」「発展途上国」、そして新たに登場したのは「破綻国」だ。冷戦が終わる頃,名ばかりの弱体国家が、大国の援助で大量の小火器を受け取り独立を勝ち取った。国内の秩序を保つこともおぼつかない国の中で、資源や利権をめぐって権力闘争や紛争が新興の軍閥やら紛争企業家を生み、兵力を競いあった。手っ取り早い兵力拡大は「子供たち」だ。極端な例では200人の男が12,000人の子ども達を徴収し て兵士に仕立て上げたウガンダの事例が報告されていると言う。

 06年8月17日付けの朝日新聞は、国連ルワンダ支援団の元司令官の話を伝えている。「私の見たものは敵国の兵士同士が戦う古典的な戦争ではない。隣人が隣人を手斧や鎌で襲い、少年が少年を殺す。人道も国際法もない、おぞましい狂気と蛮行が支配する世界だ...」この司令官ロメオ・ダーレル氏は退役後、虐殺を防げなかった自責や悲惨な戦場体験から、強度のPTSDを発症した。現在はカナダ上院議員で戦争被害を受けた子どもの救済活動などに取り組んでいるという。

 大人と同じ戦闘力をもつ子ども兵士はろくに報酬を払わなくてもいいから安上がりだし、命令に疑問を持たずに従う、補充も簡単だと 組織の統率者は語るという。補充は何処でも出来る。村で、難民収容所で、孤児院で、学校で、市場で。ストリートチルドレンも狙われる。武器を扱えなくなったら処分される。幸運にも紛争が鎮圧され、安定した国になったとしよう。先進国からの援助は子ども兵士が存在していたことが発覚したら大幅な減額になるか、無くなるかだ。では存在しなかったことにしよう。子ども達はそのまま放り出される。家も家族も教育も生活する術もない人殺しと略奪だけを知っている子ども達が町や村に放り出された結果、犯罪が大増加する。これらの子ども達のPSDTに対処するNGOは無きに等しい。立場を換えただけの政府軍と反政府軍、紛争は止まず、子ども兵士も無くならない。
 保護された子ども兵士の社会復帰のためのリハビリ施設の話もこの本に載っている。近隣の村人はどういう子供達がそこに収容されているのかが分かると、襲撃し殺戮した。理由は報復と恐怖。子供達は機会をみつけては逃亡するという。戻る家も村もなくまた別の組織に徴収・拉致されるだけだ。

 「夢ではたいてい、ぼくは銃を持ってて、人を撃って、殺して、切って、手足を切り取っている。こわいよ。ひょっとしたらまたあんな目に遭うんじゃないかって。泣くこともある.....女の人をみるとこわいんだ。女の人をひどく扱ってたから、近づいたらぶたれそうな気がして、殺されるかもしれない」 Z, 14歳

 「多くの途上国の軍隊が子供兵の部隊と戦ってきただけでなく、欧米の軍隊と子供の兵士たちが相対するケースも増加している」 パレスチナの子供が何百メートルも離れたイスラエル軍の見張り所から撃ち殺された報道を思い出した。ただ遊んでいた子供たちと子供兵士との区別をつけるのが難しい場所もあるのだ。

 「組織が子ども兵士を使うという選択をするには、偶然でもなく、無知だからでもなく、純粋な悪意からでもない。根底には利害があって、子ども兵士を使うことがプラスになると信じるから、組織は熟慮した上で子供達を徴収し、教化し、兵士にして実際に使う為のプロセスを用意する。」

 著者は言う、どうすればこの悪循環を無くせるかと。国への援助物資をとめる、国として孤立させる、紛争地域の利権にかかわる企業との取引を控える、不買運動を世界的に連動させる。そして、著者はこの企業への働きかけが一番効果的だとも言う。心の痛む解決法ではないか。国連では子供達をめぐってさまざまな宣言やら決議書が発せられた。特に200年の「武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択議定書」は2003年までに111を超える国が署名、50カ国が批准している。紛争を抱える国々も含まれている。 子供兵士の数は地域紛争がなくならない限り増えることはあっても減ることはない。
 
 「地雷」についても随分おおくの国が批准してはいないか。

 子供兵士の数=「進行中もしくは終結まもない紛争のうち、18歳未満の子供たちが戦闘員となっているケースは68%(55のうち37)そのうち80%で18歳未満の子供たちが戦っている。
 同様に、これはつまり、世界中のさまざまな武装組織で(つまり、政府軍でも、政治や軍事がらみで行動しているすべての非政府武装組織でも)子供たちがふえているということだ。...中略...子供兵の平均年齢は12~13歳.....全戦闘員の10%近い、20年前はこの数字はゼロだった。」
 国連の試算では50を超える国で、現役の子供兵士は30万人、軍隊や準軍事組織に徴収しているのが50万人という。

追記: 先進国の軍隊あるいは国連軍が武力組織から攻撃を受け、撃破したとき相手の戦死者の、また捕虜の半数以上が子供と分かった時、その衝撃のためにその兵士も重いPSDTを発症するという。あらかじめその対策を訓練の中に取り入れていることも付け加えるのが公平というものであろう。

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