一気に読みあげたいと思ったが、如何せん 500ページもある。原題は The Devil in the City, murder, madness at the Fair that changed America. 1983年5月~10月までのシカゴ大博覧会の話である。
パデレフスキー、フーディニ、エジソン、少女時代のヘレン・ケラー、マーク・トウェーン。若さ溢れるクラレンス・ダロウ、フランク・ロイド・ライト、シオドラ・ドライサー。イギリスではロンドンの霧の中で「切り裂きジャック」が恐怖を撒き散らし、コナン・ドイルは短編小説で新しい英雄を創り出していた。そんな時代のアメリカを描いたノン・フィクション大作。乞うご期待といったところ。
パリ万博の素晴らしさが伝わっていくうちに増幅される中、おなざなりに出品した為に他国、特にフランスの引き立て役に甘んじなければならなかったアメリカがそのプライドを賭けて開催したシカゴの万博。正式な名前は「世界コロンビア博覧会」という。コロンブスのアメリカ発見400年を記念する一大イヴェントである。シカゴはブラックシティと呼ばれ 博覧会の会場はホワイトシティと呼ばれた。建築物が全て建築用の漆喰に一番馴染む塗料「鉛白とオイル」で塗られていたからであり、またシカゴという現実の街が既に混沌とした暗黒の街でもあったからだ。
博覧会の青写真が出来、工事が始まる。主役級の登場人物が山程あらわれる。それと呼応するように物静かにH.H.ホームズと名乗る男が自分だけの青写真を携えてやってくる。彼は大量無差別殺人者で、その記録はまだ破られてはいまい。断定できないのは本人もしかとその数を覚えていないからなのだ。
この博覧会は当時のアメリカの技術と発明の粋を集めたもので、エジソンの動く映像・長距離電話・ジッパー・観覧車! バファロー・ビルのワイルド・ウェスト・ショウが隣接した会場で大人気を博していた。63丁目のゲート脇にはワールズフェア・ホテルが開業し、女性客に評判のオーナーがいた。時折宿泊代を払わずに姿を消す女性客がいても気にしない鷹揚な男であった。もう一人の重要な登場人物は冴えない男で、当時の市長の熱烈な支持者で、選挙に勝利した後では当然市の要職を提供される筈だと思い込んでいた。開幕と同時に建築現場が激減し、全国から集まってきた労働者はあふれ、景気は冷え込んできた。
当ての外れた冴えない男は閉会寸前に市長を暗殺し、練りに練った閉会式は取りやめになった。外の世界は不況の嵐が吹き荒れ、翌1984年7月、大規模なストライキがアメリカ各地で勃発した。シカゴではストの参加者が鉄道を封鎖し客車を燃やした。其のあおりで博覧会の目玉だった七つのおおきな建物に火が放たれ、全てが炎の中に崩れ落ちた。1984年12月H.H.ホームズは保険金詐欺で逮捕され、ついでに大量殺人も発覚し、1896年7月絞首刑になった。
それから100年たって、大観覧車はその大きさを競い、物欲を第一義としない連続大量殺人は珍しい事ではなくなり、どちらもギネスブックを賑わす話題となっていった。メディァの報道は連日 世界中の出来事を伝えている。其の中ではもはや「小説のような」とか「芝居をみているような」という表現は聞かれない。現実の方が想像の世界を遥かに凌駕している。このことがSFやファンタジィの世界が持て囃されている理由の一つだろう。
50年後、環境破壊は想像を絶するほど進み、化石燃料は枯渇し、飢えた人間が地球を食い尽くしていると思う。コロンブスの新大陸発見500年記念の行事は南北アメリカの各地で企画されたが、反対集会もまた多かった。「我々は発見されたのではない!」
50年後ですら保証できないのに、600年記念行事だなんて.......
2006-08-07
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